Proximityの解説

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音の奥行きを操作できるプラグインで、録音物の距離感の補正やミキシングでの前後感の調整にとても効果的です。
また、ドップラー効果やワウフラッター、トラックのダブリング効果も出せたり、シンプルなEQやゲインフェーダーとして使う事も出来ます。

オケから浮いてしまうトラックを馴染ませたり、ミックスに立体感を出したり、主にそんな場合に有効だと思います。

あまり馴染みのないタイプのエフェクトだと思うので、まずはプリセットを試してみると良いかもしれません。プリセットについての説明もこの記事の最後に載せてあります。



設定中は単体だとわかりづらい効果もあるので、オケ中のトラックの初段にproximityを刺し、EQコンプ等エフェクトで音を整え、オケ全体で鳴らした状態でproximityをオン/オフして効果を確認してみると良いと思います。

概要

さてそのproximityですが、心理音響モデルをベースにしたエフェクトで、以下のような効果を組み合わせて使うことができます。

  • 音速によるディレイを再現して音の距離感を出す
  • 音源までの距離による音量のロス
  • 空気中の音の伝達における高域の吸収
  • ステレオ音像の広さの操作
  • 仮想マイクによる近接効果
  • 距離に応じた初期反射音の付加

各要素のオン/オフを自由に切り替える事が出来ます。
また、このプラグインはモジュレーションも可能で、一定の周期で距離感を変える事ができます。
例えば、ディレイタイムの変化でドップラーエフェクトを生じさせたり、
ディレイタイムを周期的に変化させるとワウフラッター効果を生じさせます。

プラグインフェーダーを使って距離を変化させる事で、各モデルの挙動をコントロールします。

使用例:

  • 録音物の距離感の補正
  • 広がりや奥行きを増やす
  • 僅かな”in your face”効果(音がスピーカから顔に向かって飛び出してくるような、前に出る音)の演出
  • バックグラウンドの音やリバーブ音を奥に引っ込める
  • 距離をオートメーション・モジュレーションしてディレイタイムを動的に変える事によってドップラー効果を出す
  • 疑似ステレオや人工的なダブリング
  • スムースなオートメーションが可能なゲインフェーダーとして使用でき、DAWのフェーダーを手動調整用として解放する
  • マルチマイク録音における位相問題の解決

距離情報の概念

まずはこのプラグインの要である三つの距離の概要について説明します。覚えておくとプラグインの理解も速いと思います。

Original Distance

中央のフェーダーが0dBの時に適用される距離です。

Asbolute Distance

このプラグインで仮定している仮想マイクから仮想音源位置までの距離で、プラグインでモデリング処理された後の距離です。

Relative distance

Asbolute DistanceからOriginal Distanceを引いた距離で、モデリング処理によってどれくらい距離が変わるかを示します。

特殊操作

Ctrl+左クリック(MacだとCommand+クリック)でデフォルトの値に戻ります。 Shift+マウスホイールで微調整が出来ます。
また、つまみの下のテキスト部分をドラッグする事でも調整ができます。

各コントロールの説明

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1) Original Distance
2) メインフェーダー
3) 演算後の距離情報
4) 微調整つまみ
5) Stereo channel control
6) モデル
7) モジュレーション

1. ORIGINAL DISTANCE(元距離)

メインフェーダーが0dBの時にモデリングの演算に使われる距離です。
また、フェーダーの値に応じて変化する、音源までの絶対距離を算出するのにも使われます。
デフォルトの値は0.35mです。このデフォルト値では近接効果モデリングによる低域の変化は起きません。(“6.5. Proximity”の項目を参照してください)

original distanceつまみの下の”MET(メートル法)”、”IMP(インチ法)”ボタンを押すと、距離の単位をメートル/フィート・インチに切り替える事が出来ます。
この設定はDAWをまたいでも有効なままです。

2. メインフェーダー

通常のDAWのフェーダーのような見た目をしていて、単位はdBです。
音源までの絶対距離を演算するのに用いられます。
またこのフェーダーのdB値は、距離の変化に伴うゲインの増減の値となります。

例:Original Distanceを1mに設定したとします。これを、実際の音源(録音物)と実際の録音マイク間の距離だと思ってください。この状態でメインフェーダーを+6dBにすると、6dBのゲイン増加が起こる距離にマイクを近づけたような効果が起きます。-6dBにすると、6dBゲインが減少する位置までマイク離して録音した状態を再現します。

“True Gain”モデルをオンにすると、フェーダーのゲインがdBスケールでそのまま適用されます。
例えばフェーダーが+6dBの位置にある場合、他のモデリングによるゲイン増減に加えて、単純に音量が6dB増えます。

3. 演算後の距離情報

モデリングに使われる3つの距離情報を表示します

1) “Ratio” – フェーダーによる変更後の距離と元の距離(Original distanceの値)との比です。(例えば2:1と表示されている場合、変更後の距離はOriginal distanceの1/2になるという意味です)

2) “Absolute” – モデリングに用いる、仮想音源までの絶対距離を表示します。変更後の距離となります。

3) “Relative” – Absoluteとoriginal distanceとの差です。どれだけ距離が変化したかを示します。

これらのテキストラベル上をドラッグするとメインフェーダーの値を変更できます。

4. FINE TUNE

距離の微調整つまみです。
メインフェーダーとは独立してrelative distanceの微調整ができます。

5. STEREO CHANNEL CONTROL

モノ・ステレオモードの切り替え、あるいはRかLどちらかのみに効果がかかるように設定できます。

LとRボタンが両方押されている場合はステレオモードとなり、この時のみwidthモデルが有効となります。

LかRどちらか一方が押されている場合はモノモードで動作し、押されていない側のチャンネルは処理がスルーされます。
マルチマイクでのステレオ録音の遅延補正や、ダブリング等のエフェクトをかけたい時に片方だけをオンにします。

また、モノラルのトラックに使う場合はLchだけオンにするとCPUの節約になります。

6.Model

各モデリングモジュールで、OFF(モデリングオフ)、A(モデリングタイプA)、B(モデリングタイプB)が選択できます。

6.1. True Delay

音速(340m/秒)によって起こるディレイを再現します。
トラックの発音タイミングを前後したり、ディレイタイムを動的に変化させたりできます。

このモジュールには二つの特徴的な機能があります。

・モジュレーションやフェーダーのオートメーションを使うと、ドップラー効果のように滑らかにディレイが変化していく効果を出せます。
再生中にフェーダーを動かして距離を変えると、同時に滑らかにディレイタイムが変化し、それにより周波数=ピッチが変化します。

・Fractional samples delay(ディレイタイムのサンプル数の小数点以下)が設定可能
ディレイタイムが3サンプル以下の場合、小数点以下が四捨五入されずにそのまま適用されます。
※詳しくは後述します。

動的変化のタイプは以下の二種類から選べます。
フェーダー・モジュレーション固定時のディレイタイムは両タイプ等しくなります。

・タイプA:
距離の変化は20Hzのフィルターで平滑化されます。フェーダーを動かす速さによって最大1/20秒で変化し、どんなに早く動かしても1/20秒以上の速さでは変化しません

・タイプB:
“7. モジュレーション”の”SPEED”で設定した値で距離がスムースに変化します。
例えば、0.1Hzに設定した場合、距離が10秒周期でゆっくりと変化します。フェーダーを素早く動かしても音はゆっくりとしか変化しません。

relative distanceがマイナスの値(メインフェーダーが0dB以上)の場合、リバースディレイとなります!(ディレイの逆になり、トラックの発音タイミングが元よりも早くなります)
先読みをして演算が行われるので、リバースディレイの最大タイムは、このプラグインの最大lookaheadタイム=relative distanceが0.35mの時となります。
最大値に達したらrelative distanceの値が赤色になります。

オートメーション・モジュレーション時のスムースなディレイ変化のための細微なディレイタイムの演算にはハイクオリティなsinc interpolationが用いられます。そのため距離をゆっくり変化させる場合、演算のために高いCPU負荷がかかります。

注意:DAWによるこのプラグインのレイテンシ補正は109サンプル(44.1kHz時)となります。

※fractional samples delayについて
このモジュールのディレイタイムのサンプル数は以下の式で算出されます。(44.1kHz時) sample=relative distance/340[m/s]*44100
(例えば96kHzだったら44100の代わりに96000をかけます)

この式の解が3サンプル以下の場合、小数点以下がそのまま使用されます。3サンプルより大きい場合は四捨五入されます。
例:2.5sample=2.5sample
  3.2sample=3sample
  5.6sample=6sample

参考までに、3サンプル以下になるのは
44.1kHz時:0.023m
96kHz時:0.01m

6.2. True gain

前述の”2. メインフェーダー”の箇所を参照してください。

6.3. Air absorption

音が空気中を伝達する際に、吸収されて高域が減衰するのを再現します。

逆に、マイクから離れた位置で録音されたトラックの高域のロスを取り戻す用途にも使えます。
例えば、音源から10mの所にマイクを置いて録音されたトラックがあるとします。このプラグインではその距離による高域のロスを補い、近い距離で録音されたような印象を与える事ができます。
また、高域をブーストして”in your face”効果を出す事もできます。

・タイプA:
周波数が5kHz固定のシェルビングフィルターが使用されます。
この周波数でのゲイン変化はISO 9613-1のモデルを参考に演算されます。
僅かな高域のブースト/カットをしてなおかつ音がシャープすぎたりゆるくなったりしません。

・タイプB
12dB/Octのローパスフィルターが使われます。
カットオフ周波数(-3dBになる地点)はISO 9613-1のモデルで演算されます。高域を劇的に変化させたい時にこのモードを使ってください。
例えば、リバーブの末尾を明るい音にしたい時などに適しています。

6.4. Stereo width

距離の変化によるステレオ音像の広さの変化を再現します。M/S処理によって実現されます。

・タイプA:
単純にSideチャンネルのゲインがメインフェーダーの位置によって変化します。
ステレオバスやリバーブのリターンチャンネルに使う事を想定して作られました。

・タイプB:
マルチバンドのM/S処理がなされます。
フェーダーをプラスの値にすると11kHz以上のステレオ音像が広がります。これはアナログコンソールのクロストーク効果に似た効果です。
マイナスの値にすると、500Hz以下のステレオ音像の広さが狭まります。録音素材の低域成分をセンターに寄せるのに効果的です。

6.5. Proximity

“近接効果”と呼ばれ、単一指向性のマイクが音源の近くに置かれた時に生じる低域の増幅の事を意味します。
音源とマイクの距離による低域のロスを再現する事も出来ます。通常、単一指向性マイクは特定の距離で低域がフラットになるように作られています。
“Proximity”モジュールは仮想マイクによる近接効果をモデリングしています。(ShureのBeta-57の近接効果と似ています)
このモデリングは低域にのみ作用します。逆の動作をさせる事もでき、低域を足したり、実際の録音での近接効果で膨らんだ低域を補正する事もできます。

・タイプA:
加算・減算モデリングが用いられます。
まず最初に、元距離を設定・演算する事で近接効果を取り除こうとします。その後でabsolute distanceの値を用いて近接効果を足します。この二つの効果の重ねがけにより、このモードでは通常なだらかな低域の減衰が起きます。
メインフェーダーはこの挙動を操作するのに使用されます。

・タイプB:
relative distanceの値を用いて演算が行われます。
このモードでは、relative distancceの値によっては低域を大きくブースト・カットをする事ができます。
メインフェーダーが0dBの位置ではリニアな周波数特性(増減がない状態)となります。
このモードを僅かに使ことにより”in your face”効果を演出する事が出来ます。

6.6. Reflections

アーリーリフレクション(初期反射)を生じ、人間の脳に音の距離感を知覚させる事ができます。
通常、単一指向性マイクからの信号はその指向性のせいで初期反射に不足しているので、長いリバーブをかけても奥行き感に欠ける事があります。

録音時にマイクと音源の距離が離れるほど、ドライ音に対して反射音の比率が高まります。
そこで、このモジュールでは”True gain”をオフにして、メインフェーダーを初期反射のdry/wetの調整に使いましょう。

・タイプA:
ごく少量のディレイを加えます。このモードでははっきりと聞こえる効果はなく僅かな奥行きを付加する事ができます。ステレオバスやマスターアウトに使うと良いでしょう。

・タイプB:
一定量のアーリーリフレクションが用いられます。このモードでは目立つ効果のコムフィルターエフェクトがかけられ、音が太くなります。
ドラムによく合い、ベースのDI録音に空気感を与えたい時にも有効です。

注意:”Air absorption”、”Stereo width”、”Proximity”がオンになっている場合、生成されるアーリーリフレクションはそれらのモジュールをスルーします。

7. モジュレーション

distanceの値をモジュレーションさせるのに用います。

・Shape – モジュレーションの形を設定します。
OFF/Sine(サイン波状)、Triangle(三角波状)、Sawtooth(ノコギリ波状)、Square(矩形波状)から選べます。

・Speed – モジュレーション周波数(モジュレーションの速さ)を設定します。(0.1~10Hz)
値が大きくなるほどモジュレーション速度が速くなります。

・Depth – モジュレーションの最大量を設定します。
(モジュレーション後の距離がマイナスな場合、つまりリスナー側から※、モジュレーションの中心地点の距離はdepthの値の半分の箇所となります。)

別バージョンのGUI

メインのGUIに加えて、もう一つ別のGUIが利用可能です。Igor Khomenko氏による謹製です。配布zip内の”alternative_GUI”フォルダに入っています。

プリセットの説明

01 – Smooth Fader
スムーズな動きのゲインフェーダーとして動作します。

02 – HF Enhancer
ハイエンドを僅かにブーストして高域の伸びを出します。

03 – Smooth HPF
シンプルなハイパスフィルターです。

04 – Smile EQ
ローシェルフとハイシェルフのEQをフェーダーで同時に操作できます。

05 – Depth Enhancer
フェーダーを下げていくとディープな音になっていきます。

06 – Width Enhancer
ステレオ音像の広さを調整します。 フェーダーを上げると広くなり、下げると狭くなります。

07 – Vocal
ローカット、ローミッドブーストと奥行きの付加をします。

08 – Reverb Post-process
リバーブプラグインの後にかける用途のプリセットです。
奥行きを出しつつローとハイをカットする事で、ミックス中でのデジタルリバーブの音の据わりを良くします。

09 – Deep Bass
名前の通りディープなベース音になります。

10 – Close Bass
空気感を出し、アンプに近距離でマイクを立てて録音したような音になります。

11 – Small Speaker
低域高域をカットしステレオ音像を狭める事で、小さいスピーカで再生したような音になります。

12 – Drum BUSS
低域をブーストしつつアーリーリフレクションで音を太くた上で、
少し奥行きを出してミックス中での音の据わりをよくします。

13 – HF Boost
ハイシェルフEQとして動作します。
“02 – HF Enhancer”と違い多量のブースト・カットができます。

14 – A Touch of Vinyl
ワウフラッターを再現します。
モジュレーション機能を使い周波数の揺れを生じさせます。

15 – ADT
Artificial(Automatic) Double Trackingの略で、ダブリングの事です。
LチャンネルはスルーしてRチャンネルのみにエフェクトをかけ、ダブリング効果を生み出します。